大噴湯

緑に包まれた国道、車を走らせること三時間、とうとう、「いや呆気なく」到着しました。子安峡は聞きいてはいたものの、わざわざ訪れるとまでは考えていませんでした。県境にある宿に一晩の憩いを求めて足を伸ばしたのでした。

レストラン風の大きめの建物が中央に一棟他に業務用棟一棟と旗を立てた屋台があるだけの静かな観光地です。建物の前に用意されてベンチでは女性ハイカー二人がお弁当を楽しんでいます。優に百台は収容できそうな広い駐車場には十数台の車と行儀良く並んだ大型バイク数台、まだまだ余裕があります。屋台前に用意されたベンチではバイクの持ち主たちが、周囲に憚ること無く楽しそうに話をしています。手には、全員ソフトアイスクリームを持っています。私の目がフォーカスされた先には「ソフトクリームあります」の旗が風に揺れています。

絶品でした、ソフトクリーム。栗駒山麓で大事に育てられた乳牛から作られたソフトアイスクリームは上品な舌触り、まろやかで、喉ごしも良いものでした。後味に牛乳の風味がほんのり感じられます。牛乳が苦手な私も美味しくいただきました。屋台の女性店主によると、製品化に至る道のりは決して平坦ではなく、関係省庁とのやりとりは困難を極めたようです。諦めず繰り返し繰り返し交渉を続け、製品化を可能にした職員さんがいたお陰と店主は力を込めて説明してくれました。

いわば無名の方々が真剣に取り組んで頂き生み出した成果を今、多くの人々が楽しんでいることの有り難さを思います。まさにドキュメンタリードラマ「地上の星」ですね。見るからに高齢の店主の若々しい声に賞賛をするとかつては東京を中心に活躍した「マネキン」さんだったとか、訪れる観光客と久しぶりのご対面 もあるというから驚きです。二百年前、子安峡「大噴湯」を記録として残し伝えてくれた紀行家菅江真澄の功績が今多くの人を楽しませ養ってくれています。ありがたいし不思議です。好奇心旺盛な菅江真澄さんもまさこうなるとは考え及ばぬことでしょう。

「随所に主となれば立処皆真なり」意図せず撒かれた種が時間の経過の中で大きな実を結ぶことを学んだ思いです。勢いよく吹き出す大噴湯の蒸気で清めた我が心身、新たな力を得て帰路へのアクセルを踏み込むのでした。